『鴉』

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30年前に出た深瀬昌久の写真集『鴉』の再販本を手に入れた。
おぼろげながら著者の心の奥深くを覗き見たようで、
読み終えたらなんかジッとしていられずカメラ片手に街へ。
いつもはゴミステーションにたむろしているのに、
こんな日に限って鴉がどこにもいない。
その後も当てもなく狭い路地をふらつくと、
一軒家にたむろする鳩の巣窟を発見した。
立ち位置的には鴉と対極に位置する鳩だが、
泣き出しそうな空模様を背景にすると、
なかなかの怪しさを醸し出している。
悪くはない、写真を撮りながらしばらく観察した。
でも、やっぱり鳩は鳩。
平和ボケ、いや、飼いならされているのか、
しぐさや行動に強い意志を感じない。
したたかに生きる鴉のようなたくましさがないのだ。
『鴉』はおもに70年代の北海道で撮影されている。
深瀬自身はそんな意図を持ってないだろうが、
群れていてもどこか孤独で、
北の厳しい環境でもたくましく生きる姿に、
当時の人間がだぶって見えた。
昔はよかったとかすごかったみたいな
安易な懐古主義は嫌いだけど、
今に比べて生きることまだソリッドだった頃の匂いがする。
芸術だとかそういうのは置いといて、
写真は記録という一面がある。
その記録から記憶が浮かび上がり、
創造力がかき立てられることもあるだろう。
『鴉』を手にして写真が持つ価値を実感した。
やっぱり奥が深くておもしろい。